Mr.トーマのアニマリュージョン!ブログ

アニマリュージョン!は熊本県阿蘇のカドリー・ドミニオンで行われているファンタジックアニマルショーです。このブログではショーだけに関わらず、広く地域情報や動物訓練に関しての話題を提供しております。

サンディちゃんの芸犬修業 オテ、ハイタッチ、そしてハーイの巻 その1

アニマリュージョン!見習い犬、スタンダードプードル「サンディちゃん」の話題です。

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11月生まれですから、ぴったり一歳半になったところです。
 
以前このブログで、「未だにオテも覚えていない」と表現したことがありましたが、これはサンディちゃんの名誉棄損になるかもしれません。
というのも大型犬はやんちゃな子供の頃、不用意にオテを教えてしまうと、自己主張で何にでも手をかけてきたりする悪癖に繋がる恐れがあるので、「あえて教えないでいた」というのが正しいからです。
 
さて、そのサンディちゃんは普段は人前に出ることがあまりないのですが、GW中の夕方カドリー入場口付近でふれあい活動をしました。
大勢のお客様に馴らすことと、お客様へのサービスの一石二鳥を狙ってのことです。
 
お客様からは「ふわふわでかわいい!」「おとなしくていい子ね」「この大きさでまだ一歳?」「あ、さっきの変なおじさんだ」などのリアクションを頂きましたが、私は正直、少し不満でした。
あ、いえ、変なおじさんと言われるのはむしろ嬉しいくらいですよ。
何が不満かって、サンディちゃんがこれまで覚えてきたことは、ここでは発揮できなかったからです。
人がごった返す入場口ではフライングディスクも投げられませんし、立ち歩きも石畳の上では勝手が違うし、「ホエロ」などさせようものなら少し離れた人にとってはただの無駄吠えにしか聞こえません。
こんな時「ちんちん」ポーズか、せめてオテでも教えていたら、サンディちゃんの賢さが伝えられるのに…
 
…と、そんなわけでGWが終わるとともに、まずはオテの訓練に取り掛かった次第です。
 
たかがオテですが、取り掛かりで雑に教えてしまうと、こちらが差し出した手にぐいっと体重をかけるように覚えてしまう可能性があります。
理想は、犬の方が握手を求めてくるように空中で手を静止させ、こちらは握手に応じるように手をとってあげる感じになることです。
ですから最初は手を浮かせる為、犬の右前足の手首あたりを、自分の人差し指を鎌のように使ってそっと刈り取るような動きをします。これで、その手を嫌って避けるように前足を浮かせたら、その瞬間に褒めてご褒美のおやつを与えます。
そして徐々にその浮いた手を握ってあげるようにしていくのですが、細かいタイミングは文章では伝わりっこありませんから割愛します。
 
ともかく、この方法でオテはほとんど一日というか、一回15分の訓練でほぼ理解したようです。

 

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一応、証拠写真
 
 しかし、こうなると欲が出ます。すぐにでもオテを卒業させたくなります。
どういうことかと言いますと、オテという芸はあまりにもポピュラーすぎて誰もが気楽にさせてしまうという、「諸刃の剣」の芸だからです。
特にお子様は、自分の合図で犬が芸をした事実がうれしすぎて、エンドレスで代わる代わるオテをさせたりします。そのうち嫌がって、無視するようになったりします。
 
無視くらいなら良いのですが、逆切れ気味にジャブのように手を出すようになってしまうと、せっかく繊細に教えた芸が元の木阿弥となります。
そういうわけで、「オテを卒業する」とは、オテをハイタッチに進化させるということなのですが、長くなりましたので、また次回。

「どうやって教えるんですか?」考 その2

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当時は、フリスビー犬やアジリティ競技などのドッグスポーツが世に広まり、続いて、ドッグダンスというジャンルがヨーロッパで生まれたばかりの頃でした。
まだ競技人口が少ないので、ヨーロッパの団体がビデオ撮影した映像を持ち寄っての世界大会を開きました。そこにA先生の門下生が応募したら、なんと優勝してしまったのです。つまりA先生はドッグダンス後進国の日本で、世界一のパフォーマーを育てたという伝説のトレーナーです。

そのA先生、もともとは馬のトレーナーだったそうです。腰を痛めて馬に乗れなくなり、それで犬の訓練士に転職したとのこと。
そしてその訓練法がとんでもなく独特でした。
 
普通、エサを使って訓練をする人は、「エサで釣る派」と「ご褒美にあげる派」に分かれるものです。そして、ご褒美派の方が上級者だと私は考えていました。しかし、A先生はどっちとも言えないというか、むしろ釣りまくっているようにしか見えないのです。
 
後から自分なりに整理して考えると、「頭と口先のコントロール」が一つのポイントだと気がつきました。
馬は通常、手綱によって動きをコントロールされます。つまり口先の方向性をコントロールできれば、馬のような大きな動物も操れるということです。
A先生はそれと同じことを、おやつを持った手で行うのです。

これは、どう例えたらよいのでしょう。軽い器にドッグフードを入れて犬に食事を与えると、器が滑って動くから、犬がそれを追いかけて食べながら歩くことになっちゃう感じですかね。
そのように、おやつを釣るでもなく、ご褒美でもなく、食べさせながら誘導するとどんなメリットがあるのでしょう。一例を挙げると、犬に前足を軸にして回転させることを教えることができます。
 
なんじゃそりゃ、と思うかもしれませんが、4本足の生き物は放っておけば大抵が後ろ足を軸にして歩きます。人間がリヤカーを引っ張って歩くような状態です。それに対して、前足が軸になるということは、工事現場の一輪車を押しているような状態です。
どちらが小回りが利くかはお判りでしょうか。もちろん、後者ですね。
自動車が、狭い場所の車庫入れがバックの方が楽なのも同じ理由です。
馬だったら狭い場所でターンをした後で障害をジャンプするのに、助走距離が一馬身も変わってきます。

しかし、手綱はくっついているものだから確実ですが、犬の訓練では餌を持った手に口をくっつけてくるかどうかは犬任せです。少し無理な誘導をすれば、あきらめられてしまいます。そこで、最初は要求を少なく餌を多くでスタートして、徐々に要求を大きく餌を少なくに変えていきます。
この訓練は初期段階では言葉を全く必要としない上に、動物同士が言葉ではないコミニュケーションをとっている状態に近い感じがしてきます。
大袈裟に言うと、動物と会話しているような気分になるのです。そして、その過程で信頼関係を構築していくのです。
 
だから、「動物に芸を教えるなんて、エサで釣れば簡単じゃん。」というものではなくて、「エサに釣られてくれるのも信頼関係あってこそ」なのですね。
 
というわけで、最近の私は「どうやって教えるんですか?」という質問に対して、「最初は餌で誘導します」と言いたいからこそ言葉に詰まるのです。

「なあんだ、やっぱりエサで釣るのか」と思われるのも、何か誤解を与えているような気がして。