動物トレーニング論 きめ細やかな訓練には時間がかかるもの。
動物の訓練をする時、若いうちはどうしても「短期間で教えた記録」を狙いたがってしまうものです。
私もかつては「お手なんて一日で覚えるよ」とか、「ちんちんなんて3日もあれば十分さ」とか言いたくてしょうがなかったものです。実際、クオリティを別にすれば形だけ作るのはなんとかなります。
でも、難しい芸になるほど、そうして勢いで教えてしまうと崩れてしまった時に修正しなおすことができません。中間の過程がないので、全く初めからやりなおさないといけなくなります。
奈々の「ちんちん」は安定感が出てきましたが、まだまだです。
ねじ穴を作って、一つ一つをねじで止めながら作り上げていく機械に対して、すべて瞬間接着剤でくっつけて組み立ててしまった機械のようなものです。もう分解もできないから、電池を変えるためには壊すしかないという。
猛獣や、大型の動物を扱う人たちは強引に手取り足取り芸を覚えさせることができませんから、基本訓練をすごく大事にします。
特に、技術が確立されている馬の訓練は細かいようです。
馬って、天然の状態では走りながら方向を変える時には、斜めに走るような感じになるそうです。イメージで例えると、自動車は普通前輪の方向しか変えられませんが、それがカーブを曲がるときに後輪も少し方向を変えられるかのような感じでしょうか。多分ですが、獲物に追いかけられた時にカーブが分かり易すぎると最短距離で追いつかれてしまうから、減速を抑えつつフェイントのようにいつの間にか曲がるのでしょう。
ただ、広い原野なら別ですが、狭いハードルを通過させるなどのコントロールが必要な乗馬では、これではコントロールしづら過ぎます。
私は乗馬にはそれほど詳しくありませんが、特に曲芸をする馬などは、初めのうちにかなり細かく、前足を中心にするように後ろ脚で円を描くようにまわってカーブするとかを教えるようです。
後輪だけが可動するフォークリフトのような動きをさせたりするわけです。
また必要に応じて、真横にスライドするように移動することなども教えますし、ブルドーザーのキャタピラが左右で逆回りをすることでその場で方向転換するようなイメージの動きを教えたりします。
そのように細かい動きができないと、方向を変えるだけで一馬身以上のズレが生じちゃうわけです。
馬だとそういう想像が簡単につきますが、犬くらいなら体が小さいので、普通はそこまで気にしません。
しかし私は、初期訓練ではこの前足や後足の位置についてかなりこだわります。
例えば、犬が普通に四歩足で立っている時、体を横長の長方形にみたてます。
背骨は上の辺にあたります。上底っていうんでしたっけ。台形の公式を求めるのに使うあれ。
その上底が、おすわりをすると対角線になるわけです。でも、元の長方形に必要な対角線の長さには足りないから、横幅が縮んで正方形に近くなることになります。
それがどちらの方に縮むのかがとても大事なんです。
理想は前足は少しも動かず、後足が半歩前に出ておすわりになる形です。
だけど、ボールなどのおもちゃをご褒美にして上を向かせようと見せびらかすと、大抵は後ろ脚がそのままで、前足の方が半歩下がって座ることになります。
それでもとにかく座ればいいや、と思っていると、次第に後ずさりするようなおすわりをする癖に変わっていったりもします。
だから、おすわり一つとっても細かくやりだすと本当に時間がかかります。
でも、プロのトレーナーは多数の犬を扱うのが仕事ですから、一頭あたりに時間をかけられないのが現実です。どこらあたりで見切りをつけるかです。
(その意味では、一頭のワンちゃんをパートナーとして全エネルギーを注ぐことができるアマチュアのトレーナーさんには、プロは大抵たちうちできないようです。)
今のところ、私はそういった地味な基本訓練を主に小型犬たちでやり直しているような状態です。客観視すれば目に見えた成果は少ないのでしょうが、毎日少しずつでも前に進んでいる実感があるので、楽しくてしょうがないんです。
しかしこの細かすぎる訓練は、なかなか文章で伝えるのは難しいものです。
次回は、シットアップ、つまり「ちんちん」の芸を例にとって解説に挑戦してみようかなと思います。