ペンギン訓練の思い出 その6 マテと居着きについて
ペンギン訓練とは違った側面から始まります。ちなみに私は、武術の経験はありません。古武術の甲野善紀さんの本は結構読み漁りましたから、その耳学問が少しあるだけです。
動物のバランス感覚は驚異的です。木の上のお猿さんとか、崖の山羊とか、落ちたら死んじゃうリスクがあるようなところで平気で生活したりしています。
そんなバランス感覚で鳥たちは二本足で歩いていると考えるわけです。倒れない自信があるから、足は4本もいらないと。
しかしペンギンは短い脚に水かきがあって足の裏が広いので、どうもバランスで立っているイメージがつかみづらいんですね。歩くのが下手なイメージがあると言い換えてもいいです。まずはトレーナー側が、このイメージを無くさないといけません。
人間も足の裏が広いけど、接地面がほとんど点である竹馬に乗って歩けるバランス感覚は、本来持っているんです。この感覚を理解するのに、甲野善紀さんは一本歯の下駄を推奨するのだろうなと思います。
逆に言うと現代人は、バランスというより力みで立っているということです。私はこれを説明するのに、車のギアのニュートラルとパーキングの例えを使います。
パーキングが居着いている状態。
ペンギンも、同じ立っているのでも居着いて休憩している時と、ニュートラルでいつでも動ける状態があると考えます。
居着いていない状態の分かりやすい例は、ボクシングのフットワーク。それを悟られないようにやっているような状態と言えばいいのでしょうか。
ペンギンも、そういう感じでのマテが上手くできるようになると、次の「オイデ」がとてもスムーズに決まります。
このような質のマテとオイデは、ショーではペンギン達のハードル飛びのスタート前の動きに生かされます。
目印の低いバーはあるものの、「スタート」と言われるまで我慢するペンギン達。もちろん、今では私が直接指導したトレーナーはいないですし、今のペンギンショーは全て今の担当者の努力の賜です。
スタートの合図はまだかと我慢するペンギン達。たまに、本当にボクシングのフットワークに見えるくらいソワソワしている個体がいるのが笑えます。
ペンギン達、トレーナーの動きをよく見ています。
こういったショー中の動物とのやりとりは、私にとって、いや、トレーナーにとっては言葉のない会話のようなものですから、本当に毎日、飽きることがありませんね。
ここら辺でやめないと長くなりすぎるので、次回また少し違った角度から書きます。