頭を悩ませる鳥のケビキの話。 キバタンのポパイちゃんの物語
イメージ悪いですが、あえてケビキシリーズ第2弾。毛引きが癖になるとなかなか改善しません。
キバタンのポパイちゃんもそのうちの一羽でした。
写真は過去の使い回しですが、風切羽がういて見えます。
本来互い違いに重なっているものが、重なる羽が不足するせいでしょう。
カドリーの中だけなのか、一般にそうなのか、キバタンは体に生えている羽毛はあまり抜かずに、長い尾羽や翼の羽を根元からかみちぎってしまうんです。
特にポパイはすごく人に依存する割にビビりで、止まり木に乗せていて人が近づくと、もう飛べる翼なんて少しも残っていないのに飛び降りてしまい、それでまた生えかけてきた太い羽の根元が折れて出血してしまうという有様でした。
鳥を飼っている人はご存知でしょうが、羽が生える時って、最初は筒羽根とういタケノコみたいなのが生えます。知らない人から見たら、そういう病気に見えます。さらに少し成長すると筆羽根と言って先っちょが筆に見えるような感じで羽毛が顔を出します。
それが大きい翼の羽根だと、中に血が通っていて赤いのがはっきりわかります。
コンゴウインコの「山ちゃん」の背中の筒羽根と筆羽根
アニマリュージョン!の立ち上げ前にインコやシェパードのハチローでふれあい接客をしている時期に、途中からこのポパイちゃんも担当に加わりました。というか、スカウトしました。
ポパイはもともと私がクマのショーをしていた時から同じ部署にいましたから、途中から毛引きがひどくなったことをずっと気にかけていました。
最初に取り組んだのは、普通に手に止まっていることです。
たったそれだけのことが、しっかりとできていなかったんです。
なぜかというと、極端なビビりですから、どうしても歴代の担当者は、甘やかしちゃいます。体をよせつけて頬ずりするようによしよししてしまうんです。これは以前トレーニング論で書きましたが、典型的な逆調教です。
動物が人間を訓練しちゃう。鳥にとっては、ビビるアピールをするほどメリットがあるんですね。ビビればビビるほど甘やかしてよしよししてもらえるのですから。
これを治すのは簡単ではありませんが、これまた専門用語で難しく言うところの「嫌子環境の中性化」が必要です。人の手に乗るという、鳥にとっては嫌な環境に置かれることに対して、甘やかしたり餌をあげたりして好きな環境になるように持っていくのではありません。ただひたすら手の上にとまらせて歩き回り、文字通り中性、つまり特に反応するほどでもない普通の状態になるまで続けるのです。
そのようにして甘やかしをやめると、他の人が寄ってきてもビビってパニックになって止まり木から落下することが減っていきます。
おかげで入場口あたりで、ほかのサービスをする傍らで止まり木に乗せて放っておけるようになりました。するとさらに、人にかまってもらえる機会が増えます。こうしてよい循環に入ったポパイちゃんはなんと、5~6年かそれ以上ぶりに、尾羽がきちんと生えそろいだしたのです。
初めのうちは、尾羽と翼がほとんどなくて、「この鳥、まだヒナですか?」と聞かれたものです。
そして、アニマリュージョン!でもチョイ役が与えられ、私は今はポパイの世話をしていませんが、今でも尾羽はどんどん増えてきています。
翼は、残念ながら、あまり生えてきていないようです。もしかして今まで頻繁に折れて来たダメージがあるのかもしれません。もう、毛根や毛穴自体がダメになっているようです。
ケビキの問題は、なかなか完治したとは言えないんです。特にキバタンは、大きな翼の羽根が筆羽根状態にある時にはほとんどいたずらはしません。
10日以上かけて、やっとまともな羽根になったと思った次の日に齧って落としてしまったりしますから、一喜一憂しないようにしておかないと、本当に担当者の精神にダメージがあります。
推測でものを言うのはいけませんが、毛引きの鳥と付き合うのは、きっとアルコール中毒者やリストカットやそういう心の傷を負った人間と付き合うのと似ているのではないかと思っています。
本当に動物には、いろいろと学ばされます。