ペンギン訓練の思い出 その3 ペンギンと距離を開ける体の使い方
前回のペンギンシリーズの続きです。
本文とはあまり関係ないですが、今のペンギンのショーは「海賊」がテーマです。
服を着せれるまでに馴致の進んだペンギンたち。
担当スタッフの努力と熱意には今更ながら感動します。
せめてペンギンにお魚を与える腕一本分、つまり「小さく前へならえ」くらいの距離は開けることができるようにならないと、群れのコントロールなど不可能です。一瞬でもいいから距離を開けるにはどうするか。
魚を与える時に急いで手を前に伸ばすのでなく、腰バケツにやった手の位置をその場に残す要領で、体の方を後ろに下げるのです。つまり、自分の方が一歩下がりながら餌を与えるということです。
たったそれだけのことなのですが、この動きの理解が深まると、いわゆる「小手先の動き」ではなく、体幹をどうコントロールするかを意識し始めることができるようになります。これができれば、あわてて後ろに下がる必要は全くありません。
しかしこれは、普通はあまりしない動きなので体が覚えるまで練習が必要です。がーまるちょばのカバンが静止しているパントマイムのようなものですから。
これができるようになると、ペンギンがご褒美をもらった瞬間には、人間と腕一本の距離が開いていることになります。
こういった動きを説明するのには、行動分析学よりは古武術とか、身体意識の知識と理論を活用します。というのも細かいコツを言えば、この時「ナンバ歩きで半身になる」ことが大切だからです。
右手でお魚をあげながら左足の方から一歩下がると、距離を開けるのがスムーズになります。これは、同じ方の手と足を一緒に出す「ナンバ歩きです。」
これについてはいつか別に説明するか、記事をあげたいと思います。
この魚の与え方を練習すると、そのまま餌を前に投げることも簡単にできるようになります。すると、あまり馴致が進んでいないペンギンに距離を開けて餌を投げてやる時にも活用できます。臆病な個体は、餌を投げる手にビビって逃げちゃいますが、この方法ではペンギンからみて、人間の体が一歩下がっているように見えるだけですから。
ペンギンどころか、アシカやアザラシの訓練にも有効なのではないかと思うくらいです。
さて、腕一本分の距離を一瞬ですが開けることができました。
でもこの一瞬、ペンギンは餌を食べている状態ですし、人ときれいに向かい合っているので、すぐには動けません。ここですかさず、次の餌を投げてあげます。
タイミングが合って、ペンギンがその軽いフライかライナー性のお魚を食べることができれば・・・これは、今までの上から降ってくる餌とは全く違った質になります。
「エサで釣る」から「ご褒美のおやつをもらう」に変わる第一歩です。
また、ただ上から降ってくる餌ではなく、ライナーやフライ(油で揚げるという意味ではないですよ)のような餌があるということが分かれば、距離がある方が捕りやすいということもだんだん理解するようになるはずです。
また次回に続きます。