Mr.トーマのアニマリュージョン!ブログ

アニマリュージョン!は熊本県阿蘇のカドリー・ドミニオンで行われているファンタジックアニマルショーです。このブログではショーだけに関わらず、広く地域情報や動物訓練に関しての話題を提供しております。

「どうやって教えるんですか?」考 その2

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当時は、フリスビー犬やアジリティ競技などのドッグスポーツが世に広まり、続いて、ドッグダンスというジャンルがヨーロッパで生まれたばかりの頃でした。
まだ競技人口が少ないので、ヨーロッパの団体がビデオ撮影した映像を持ち寄っての世界大会を開きました。そこにA先生の門下生が応募したら、なんと優勝してしまったのです。つまりA先生はドッグダンス後進国の日本で、世界一のパフォーマーを育てたという伝説のトレーナーです。

そのA先生、もともとは馬のトレーナーだったそうです。腰を痛めて馬に乗れなくなり、それで犬の訓練士に転職したとのこと。
そしてその訓練法がとんでもなく独特でした。
 
普通、エサを使って訓練をする人は、「エサで釣る派」と「ご褒美にあげる派」に分かれるものです。そして、ご褒美派の方が上級者だと私は考えていました。しかし、A先生はどっちとも言えないというか、むしろ釣りまくっているようにしか見えないのです。
 
後から自分なりに整理して考えると、「頭と口先のコントロール」が一つのポイントだと気がつきました。
馬は通常、手綱によって動きをコントロールされます。つまり口先の方向性をコントロールできれば、馬のような大きな動物も操れるということです。
A先生はそれと同じことを、おやつを持った手で行うのです。

これは、どう例えたらよいのでしょう。軽い器にドッグフードを入れて犬に食事を与えると、器が滑って動くから、犬がそれを追いかけて食べながら歩くことになっちゃう感じですかね。
そのように、おやつを釣るでもなく、ご褒美でもなく、食べさせながら誘導するとどんなメリットがあるのでしょう。一例を挙げると、犬に前足を軸にして回転させることを教えることができます。
 
なんじゃそりゃ、と思うかもしれませんが、4本足の生き物は放っておけば大抵が後ろ足を軸にして歩きます。人間がリヤカーを引っ張って歩くような状態です。それに対して、前足が軸になるということは、工事現場の一輪車を押しているような状態です。
どちらが小回りが利くかはお判りでしょうか。もちろん、後者ですね。
自動車が、狭い場所の車庫入れがバックの方が楽なのも同じ理由です。
馬だったら狭い場所でターンをした後で障害をジャンプするのに、助走距離が一馬身も変わってきます。

しかし、手綱はくっついているものだから確実ですが、犬の訓練では餌を持った手に口をくっつけてくるかどうかは犬任せです。少し無理な誘導をすれば、あきらめられてしまいます。そこで、最初は要求を少なく餌を多くでスタートして、徐々に要求を大きく餌を少なくに変えていきます。
この訓練は初期段階では言葉を全く必要としない上に、動物同士が言葉ではないコミニュケーションをとっている状態に近い感じがしてきます。
大袈裟に言うと、動物と会話しているような気分になるのです。そして、その過程で信頼関係を構築していくのです。
 
だから、「動物に芸を教えるなんて、エサで釣れば簡単じゃん。」というものではなくて、「エサに釣られてくれるのも信頼関係あってこそ」なのですね。
 
というわけで、最近の私は「どうやって教えるんですか?」という質問に対して、「最初は餌で誘導します」と言いたいからこそ言葉に詰まるのです。

「なあんだ、やっぱりエサで釣るのか」と思われるのも、何か誤解を与えているような気がして。

「どうやって教えるんですか?」考 その1

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動物ショーの仕事をしていると、「どうやって芸を教えるんですか?」とお客様に聞かれることがあります。
この質問には、毎回言葉がつまります。芸の教え方を秘密にするつもりは全くありませんが、一言では言い表せないくらいたくさんの要素があるからです。絶対、長くなります。(というわけで、今回は写真なしの長文です。あしからず。)
 
20年以上前の犬の訓練を始めたばかりの頃は、まだこの質問も返答しやすかったです。「まず、ボールやフリスビーなどで遊んでやって大好きなおもちゃを作って、それをご褒美に芸を教えます。」と言っていました。
当時は世の中もまだ、犬の訓練において「エサで釣るのは本当の信頼関係ではない」という考えが主流だったように思います。警察犬用の訓練によって訓練士の資格を得た人が家庭犬訓練もするのですから、エサで訓練などして犯人にエサで釣られたら大変、という考え方だったのかもしれません。
 
私の動物訓練のキャリアはクマが最初ですから、ご褒美におやつをあげて芸を教えるスキルはありました。しかし、犬はどうしてもエサではなく信頼関係で教えてみたかったのです。
私は、思い込むと極端です。エサで釣らないと言っておきながらエサの前に座らせたりするのもアンフェアな感じがして、最初に訓練したシェパード犬は食事前のマテもかけたことがありませんでした。
エサを使わないで、ひたすらボールやディスクで遊んで褒めて育てたシェパードは、芸はメキメキ覚えましたが、落ち着きのない超ハイパー犬になってしまいました。
 
このあたりのくだりは、過去にこのブログで書いたことがあったと思います。まるで苦行をやりつくした末に苦行を捨てた瞬間、悟りを開いたお釈迦様のように、と言えば大袈裟ですが、ただ褒めることをやりつくした結果、これではいけないと悟ったのです。
「エサで釣ろうものなら信頼関係にヒビが入る」などと言っているうちは、まだ相手を信頼していないということです。お互いを信頼しあうのが「信頼関係」なのに、自分が相手を信頼しきれていないのです。
お釈迦様を例えに出したついでに、やはり全ては中庸、つまりほどほどのバランスが大事なのですね。
 
そしてバランスのとれた訓練法を模索していたある日、北九州の有名なドッグトレーナーのA先生セミナーを受ける機会がありました(と言っても、これも今から10年も前の話です)。
このセミナーで私は目からウロコが何枚も落ち、結果として現在の訓練法に落ち着いたわけですが、すでに長文なので次回に続きます。