ペンギン訓練の思い出 その7 動きの基点とペンギンキャスター理論
居着く、居着かないを少し別の言葉で説明します。
あるイルカトレーナーさんは、イルカ訓練でマテの概念はないと教えて下さいました。この意味はわかります。私の表現で言うパーキングギアはなく、ニュートラルギアがあるだけだということだろうと思います。
トレーナーさんがジャンプの合図をするのを、水面から顔だけ出してじっと見ているイルカの光景はよく見かけます。でも、あれはマテじゃないってことになります。
ではなんなのかというと、私の解釈では短距離走でいう「位置について」。その後のジャンプの合図が「よーい、どん」です。
まさにペンギンのハードル飛びのスタートはこれです。
①位置についてで「ニュートラル」
②用意でブレーキを踏んだまま「ドライブ」
③ドンでスタート。
長く止まっている状態が続くと居着くことになります。以前、手のひらをかざしてゆっくり10数えながらペンギンに向かって手を伸ばすというマテの方法を書きました。
普通なら大体その位、つまり最大でも10秒程度が集中を切らさずに止まっていられる時間でしょう。
自動車の例で言えばドライブギアは放っておいたら進んじゃいますから、フットブレーキを緩めてしまわないように多少とも緊張している間です。
そんな集中状態をショー中ずっと継続することはできません。芸をしていない間はニュートラルです。まさにバラバラな方向を向いている烏合の衆。そんなペンギンを集団で動かすためには、まず方向性を決めて一歩踏み出させることが大切です。
これは、最初の方で説明した一歩下がって餌を与える動きで解決します。腕一本分の距離を開けてからオイデをかける。つまり、最初の一歩は必ず自分向きに動くということを「動きの基点」とします。
そしてオイデを、イケに上手く変換させるんです。
イケの前の引き込み。軽く後ろに下がる動きで、まずは摩擦係数を減らすイメージ。
今のショーでもなんとなく面影がありますね。
スマホのノーマル写真であわてて連写した次の写真。
イケの方向に転換中。
ここから先はまた別に訓練が必要ですが・・・。
イルカ訓練の経験はありませんから多分ですが、イルカの「位置について」が「静」なのに対し、ペンギンのそれは、「動」の中で行われます。
キャスター理論とは、ペンギンが群れでいながらもバラバラな方向を向いていると、動き出しが上手くいかないということをキャスターに例えるからです。
キャスターって、タイヤの方向性がありますよね。椅子の足についている4つのキャスターが、バラバラな方向を向いていると動かすのが大変です。キャスターって、全部のタイヤが同じ方向を向くことができる偉大な発明なんです。一回力を入れて、どこかの方向にぐっと押せば、一瞬にして4つのタイヤの向きがそろいます。
そのように、ペンギンも方向を決めて少し動かしてやると、あとは惰性で一気に動きやすくなるのです。さらにキャスターと似ているのは、いきなり反対側には動かしづらいこと。特にバックはほとんど無理です(ほんの短い距離でまっすぐなら、少しだけ下がっれるのも似ていますね)。小さくても、カーブを描いてあげないと反対方向には動きません。一瞬で曲がれるのは、常に左右45度が限界。ペンギンの場合をもっと極端に言うと、左右に一歩ずつ互い違いに45度曲がりながら歩いた結果として前に進んでいるようなイメージです。
まずはどの方向に進ませたいとしても、最初の一歩は自分についてこさせることが基本、という話でした。
次回は、「イケ」の合図に移りたいのですが・・・
話題がいろんな方向に飛んでいるように感じるでしょうからちょっとこの辺で話を整理しないといけないかもしれませんね。