コンゴウインコのチビちゃんのフライングフォーム改造計画 その2
動物訓練を行う上でトレーナーの頭を悩ませるのが、「芸が崩れた時にどこまで訓練をさかのぼるべきか」という問題です。
というのも、初期段階に立ち返った訓練を行うと、今、かろうじてできていた芸ができなくなってしまうケースが結構あるからです。
例えば、自転車に乗れるようになった人は、もう補助輪は必要ないですよね。そういう人が、初期段階に立ち返って補助輪付き自転車に乗ったとします。すると、カーブで車体を倒そうとすると補助輪が邪魔をして、バランスを崩したり、スピードによっては転倒しちゃったりします。
人間は理性があるから補助輪認識できますが、昔、クマさんやお猿さんに自転車を教えていた時は、こういった問題でかなり苦労しました。
補助輪を付けるレベルまで後退すると、カーブを怖がるという副作用が出ます。
さて、話の本筋であるコンゴウインコのフライングの場合。人によって教え方は違うでしょうが、私はチビちゃんの初期訓練は、お手玉のように自分の右手から左手に飛び移らせるということからスタートしました。
ここまで遡るどういう副作用があるのかというと、遠くに飛ばしたくても、鳥が自分の方に向かって飛んできてしまうので、せいぜい1m50cmの範囲でしか飛ばなくなってしまうという癖がつきます。だから今までの訓練課程を全てやりなおす覚悟がいります。
それでも、基本からやり直すと心に決めたのですから、ほとんど2~3年ぶりにチビちゃんの初期訓練にとりかかりました。
覚悟とか言いながらも実は、わくわくしています。
なぜって。
動物の訓練において非常に大事なことは、ある程度芸が固まってしまうまでの行動形成は、1人のトレーナーが行わないといけないということです。チビちゃんの場合、行動形成は出来上がっていたとはいえ、この2年間で3~4人くらいメイン担当者が変わっていましたし、そこに私が入ってしまうとますます混乱するだろうと、これまでは指をくわえて見ていただけでしたから。
そんなこんなで、ステップ1。右手に鳥、左手は餌を持って見せた後で握りこみます。
最初はあえて、「前へならえ」くらい、つまり自分の肩幅くらいの距離からスタートします。というのは、このくらいの距離なら飛ぶというより、ほとんどジャンプで移動できます。自分で踏み切るという感覚を思い出して欲しいのです。しかし、たったそれだけのことが最初は少し苦労します。
強引に跳ね飛ばしてあげたくなりますが、ここが我慢のしどころです。
しかし、飛ぶのをただ動かず待つわけではありません。
「チビちゃん、タップ」という掛け声とともに、「チビちゃん」で少し腕をさげ、「タップ」で軽く跳ね上げます。
これを、鳥が飛ぼうが飛ぶまいが、ずっと同じリズムで定期的に繰り返します。
私は自分の腕がそういった自然物の法則のように動くものだとイメージしています。木の枝が一定のリズムでそよいで、鳥がその反動をうまく利用して飛び立つのを待っている感じです。
そのうちに鳥がタイミングの法則をつかんで、「タップ」のタイミングでもう一方の手に飛び移るようになります。
この小さな一歩が、鳥類にとって(?)大きな一歩です!
なぜならこれは飛ばされるのではなく自ら跳ぶ、専門用語でいう「自発的行動」だからです。
一度できてしまったら、次からはできる頻度はかなり高くなります。
自分で踏み切るということができている前提で、少しづつ手の感覚を広げていきます。
それとともに、一度の掛け声(コマンド)で踏み切らなかったら、次のコマンドを言うまでの間隔をどんどん長くしていきます。
ゴール側の手は握りこぶしにしてあって、エサを何粒か握っています。
ゴールの手に止まったら手が開いて餌を食べることができる、私はそういうルールのもとに動く装置なのです。
こうして、一日分の餌は全部この方法で与えてしまいます。
初日はこれでおしまい。大体、両腕の間隔は1mくらいに広げることができました。
最終目標が100点満点の芸に対して、5点満点を提示して満点を取らせ、訓練は楽しいものだと認識してもらう作業ですから、まさに「くもん式」そっくりですね。
あと95点・・・さて、どうなることやら。